保湿やバリア機能に対応するスキンケアは、光老化を含む老化に関する研究が盛んになる以前から、化粧品の基本的な機能として提供されてきました。ただ、皮膚の保湿とバリア機能についての詳細な解明が始まったのは、1950年頃に天然保湿因子(NMF;Natural Moisturizing Factor)による角層の保湿機能に関する研究が注目されてからです。
その後、数々の研究により、年齢を重ねても美しい肌を維持するためには、乾燥対策と紫外線対策が非常に重要であることが明らかになりました。肌の乾燥は、乾燥小じわだけでなく、炎症や肌荒れなどの肌トラブルの原因となることもあります。さらにはこれらの問題が蓄積すると、皮膚の老化を促進することも科学的に証明されています。
皮膚を健やかに保つためには、保湿が最も重要で基本的な要素であることはご存知かと思います。保湿は、肌の最も外側である角層を持続的に水分で潤すことを指します。そのため、外部からの補給や内部からの生成力を促進するなど、皮膚科学の知見に基づいた様々な保湿機能が化粧品に応用されています。また、皮脂や天然保湿因子(NMF)といった肌本来の保湿機能を模倣し、適切なバランスで油分と水分、保湿剤などを配合した様々な保湿ケア製品が開発されています。
この講義では、皆さんの肌の保湿機能と化粧品による日々の保湿ケアについて、まず基本的な原理をお伝えしたいと思います。
保湿ケアに関する情報は多く存在しますが、保湿機能の基本原理を理解することで、あの皮膚科医のお勧めだからいいとか、あの成分が入っていたら効くとか、この成分が入っている製品はやめた方が良いとか、…周りの表面的な情報に惑わされずに、自分の肌にとって最適な保湿ケアを実践できるのではないかと思います。
自分の肌を信じ、信頼できる保湿ケア製品と出会い、正しく使用していくために、少しでもお役に立てればと願っています。
保湿Ⅰ 講義1 保湿序論
水素結合の話
他の情報サイトでは、まずここで肌の構造や肌本来の保湿機能の話から入るが一般的ですが、本講義では、意図的により根源的なお話から始めたいと思います。
ところで突然ですが、
水は「H2O」と表現されることは
知っていますよね?
はい、教授!
えっと確か
こんな構造ですよね
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水とは、1つの酸素原子(O)と2つの水素原子(H)が電子を共有することで結びついた「共有結合」という強い結合でつながっている分子です。実はこの時、酸素と水素の間には電子を引き寄せる相対的な強さ(電気陰性度)に違いがあります。その結果、酸素原子は余分に引っ張られた電子によって負電荷(マイナスの電気)を帯びます。一方、水素原子は弱い正電荷(プラスの電気)を帯びることになります。
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そのため、水分子は内部に電気的な偏りを持ちます。この偏りにより水分子内に発生するプラスとマイナスの極性によって、隣り合う水分子同士はいわば磁石のN極とS極のように引き合い、共有結合と比べて弱い「水素結合」という結合でつながります。
同じ水分子内のO-H共有結合の距離は96.5pmですが、水分子の水素原子が隣の水分子の酸素原子とつくる水素結合の距離は177pmと長くなります。このとき水分子同士の水素結合の結合力は、共有結合の約10分の1程度と考えられています。
あ、pmはピコメートルと読みます。
1mm の 1/1000 が 1nm(ナノメートル)
1nm の 1/1000 が 1pm です。午後っていう意味じゃないですよ。
「水素結合」が
重要…なのね。
「ピコ」ってなんかカワイイ!
このように、隣り合う水分子同士は水素結合によるネットワークを構築しています。そして、温度の変化によって水分子の運動性が変化し、結合の強さや配置の規則性が変わるため、液体状態の水は水蒸気や氷の結晶構造など、異なる形態に変化します。
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…と、ここまでは水に関する話でしたが、実は水素結合は水以外の物質とも水を介して同様に起こります。
そこで、化粧品に使用される代表的な水溶性の「保湿剤」を例に挙げて、この概念をより具体的に理解していただきたいと思います。
保湿剤にも水素結合
皆さんは一般的に化粧品でよく使われている保湿剤として何を思い浮かべますか?化粧品を手に取った時、全成分表示の上のほうによく出てくる成分として、例えば「グリセリン」を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。
確かに化粧水の全成分表示だと、
上から5番目くらいまでにはだいたい出てくる気が…
実は、グリセリンは以下のような構造をしています。
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先ほど水の説明の際にお話ししたO-H共有結合がグリセリンにも存在することがわかりますか?グリセリンは水溶性保湿剤の一種であり、“多価アルコール(またはポリオール)”というカテゴリーに属しています。多価アルコールとは、2つ以上の「OH(水酸基)」を持つ有機化合物のことを指します。
ちなみに「OH」の呼び名には以下のようなさまざまな表現があります。
- 水酸基
- OH基(オーエイチ基)
- ヒドロキシ基(ヒドロキシル基)
- オーハー基
アルコールや多価アルコールは、「水酸基」の数によって「2価アルコール」や「3価アルコール」といった形で区別されます。先ほど紹介したグリセリンは、水酸基を3つ持っているため、3価アルコールということになりますね。
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ここでピンときた方はさすがですね。
グリセリンは分子内に水酸基(OH)を3つも持っており、水分子との強力な水素結合によって水をしっかりと保持する「保湿に最適な構造」であることが理解できるでしょう。
だから化粧品の保湿機能のために
グリセリンはよく配合されるんですね。
なるほど。
あ、教授。話が少し逸れますが、ネット上でグリセリンがアクネ菌のエサになるという話が広まったことありましたよね。
正式な学会や論文発表でもない、ある企業が自社サイトに掲載した情報です。試験条件が曖昧で皮膚での検証も見当たりません。
この話題提供への道義的責任はいまだ解決していませんね。
肌では皮脂の分解により常にグリセリンは供給されていますし、この試験は化粧品の組成、皮膚の構造やスキンフローラなど肌全体の環境が考慮されていません。
グリセリンは肌に元々存在し、高い保湿性と安全性を併せ持つ優秀な保湿剤です。
水分を保持する力「結合水」
ここで、水の状態と肌の保湿の関係について少しずつ説明していきます。
さて、肌を保湿するために、
単に水を与えるだけではなく
保湿剤を配合する理由は何だと思いますか?
えっと…よ、よりしっとりするからですか?
(ん?なんか私フワっと回答…)
もちろん、肌を潤い豊かにするためには、水だけを与えるという考え方もあります。しかし、おそらく皆さんも、それだけでは肌はすぐに乾燥してしまうと感覚的に理解していると思います。与えた水が体温近く(約37℃)で皮膚表面にただあるだけでは、すぐに蒸発してしまうからです。
水素結合などによって他の成分に拘束されることなく自由に移動できる状態の水の集合を「自由水」と呼びます。たとえば、単純に机の上に垂らした水は自由水です。自由水は自然に蒸発しやすい性質を持ちます。
一方で、水分子が他の成分から水素結合などの相互作用によって制約を受け、ある空間に閉じ込められ運動性が極端に低下した状態を「結合水」と呼びます。
自由に飛んでっちゃう自由水 と
しっかり抱え込まれてる結合水 ね…
肌がもともと保有している水や、スキンケアによって供給された水は、蒸発を防ぐために効率的に肌内部に保持し続ける必要があります。そのためには、保湿剤による水素結合によって水を「結合水」の状態に保つことが重要です。多価アルコールなどの水酸基を持つ成分は、肌内部でも水分子と水素結合を形成することで高い保湿効果を発揮します。
なお、結合水の形成には他の原理も存在します。
- アルコールやカルボン酸、アミンなどによる水素結合(既出)
- イオンや分子が溶媒中に溶解する際の溶媒和
- 物質表面の極性による吸着
引き続き、水酸基(OH)による水素結合に焦点を当てて説明します。
では次に、一般的な多価アルコールの中で、化粧品によく配合される成分にも注目してみましょう。
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あくまで汎用的ものを数点ピックアップしました。
似たような構造であっても感触や保湿性、およびその持続性には違いがあります。
実はこれらの多価アルコールには、水酸基(OH)の数や構造の違いによって、保湿性や使用感に違いがあります。
たとえば、ジグリセリンは1つの分子により多くのOH基を持っているため、よりしっとりとした感触を与えます。一方で2価アルコールなどはグリセリンほどの保湿効果はありません。厳密には、OH基の数だけでなく、分子の立体構造も水素結合の強さや水分子を放出する速さに影響を与えています。(🔗参考文献)
さらに最近、保湿剤として何種類かの多価アルコール水溶液を用いた実験で、保湿直後とその後徐々に乾燥していく時の角層構造の状態を観察した研究結果も報告されています。(🔗参考文献1、🔗参考文献2)
2価以下のアルコールは、OH基の数が少ないため一般的にべたつきは少ないです。
もう一度、構造を注意深く見てください。OH基のない部分は通常「炭化水素(アルキル)」と呼ばれ、油と似た構造を持っています。そのため、これらの成分はべたつきを最小限に抑えながら、程よい保湿感と滑らかな油のような感触をもたらす傾向があります。
さらに構造の枝分かれの仕方によって微妙な使用感の違いも生じます。研究者たちはこれらの使用感の違いを見極め、組み合わせたり使い分けたりして化粧品の使用感触を作り出しています。
これを感触と保湿性で使い分けているんですね。
しかも複数の多価アルコールを組み合わせるなんて、
スキンケア化粧品の使用感調整って奥が深い!
実はエタノールにもOH基が存在
ご存知の通り、エタノールは蒸発しやすい成分です。化粧品には様々な目的でエタノールが配合されています。清涼感や皮膚温度の低下効果、収斂(引き締め)効果、べたつき防止、水に溶けにくい成分の可溶化、浸透促進、防腐効果などの効果が期待されるからです。
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エタノールは1価アルコールに分類され、1つのOH基を持つため、やはり水分子と水素結合を形成します。
エタノールは自身の揮発性が高いため、蒸発する時に水素結合で捕まえた一定量の水分子も一緒に連れていってしまいます。ただし、エタノール自体の蒸発と連れていかれる水分量は、エタノールの配合濃度、塗布時の外気温や体温、気圧、他の成分との相互作用などによっても異なります。
特にエタノールが高い濃度の場合、エタノールの蒸発によって水分が奪われ乾燥感を感じる場合や、肌の状態によって刺激が引き起こされる場合もあります。しかし、エタノールがひとたび配合されれば必ず刺激を引き起こすわけではありませんし、先に述べたように配合するメリットもあるため、安全性を確認した上で引き続き配合される化粧品は存在します。
エタノールはしばしばフリーコンセプトの対象にされがちですが、
安全性を確認した上で、製品の機能向上に必要だとして配合されています。
もちろん肌との相性もありますが、少しでも配合していたら即刺激、とはならないことも分かっていただきたいです。
保湿感とべたつきは紙一重
スキンケア化粧品の高い保湿性能を実現するために、製品に3価以上の多価アルコールを多量に配合すると、結果的に消費者が嫌う「べたつき」を引き起こす場合もあります。
高い保湿性とべたつきのない感触の両立は、開発者にとっては非常に困難な課題です。この原理についても少し説明したいと思います。
例えば、「もっちり感」を定量化するために、「べたつき感」「残液感」「粘着感」などの感触を分解して定量化し、それらの関係を検証した研究がありました🔗参考文献
この研究では、化粧品が肌に残留する液体の感触とその塗膜の組成が、べたつき感などの肌触りにどのような影響を与えるかが考察されています。
多価アルコールを含む保湿剤を使用したスキンケア化粧品を肌に塗布します。この際、水分は徐々に肌の内部に浸透したり一部が蒸発したりするため、残りの保湿成分が皮膚上で濃縮されます。化粧品の塗布が終わると、肌表面には浸透しなかった分の多価アルコールが残ります。
このとき多価アルコールは自身のOH基が外気中の湿気(水)と水素結合をして吸い込もうとする性質によって、水産基(OH)を外気のほうに向けて露出させます。その結果、肌表面には水酸基が並び、親水性を持つことになります。
手などでその肌表面に触れると、水産基(OH)が指の表面にある水分や他の水素結合を形成する成分と相互作用します。これにより、「べたつき感」や「粘着感」が生じます。
グリセリンやジグリセリンなど水酸基(OH)を多く持つ多価アルコールは、単独で触ると非常にべたつきます。もちろん、べたつき感には溶液の粘性や硬さなど他の要素も関与していますが、ここでは理解しやすくするために省略しています。🔗参考文献 🔗参考文献
なるほどぉ
べたつきの原理が
なんか分かった気が…
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グリセリンのべたつき防止策(応用編)
ここでは、スキンケア化粧品開発におけるべたつき回避技術の一例についてご紹介しましょう。もし興味がなければ、スキップしていただいても構いません。
先ほど説明したべたつきを軽減する方法の一つとして、例えば、異なる種類の保湿剤を組み合わせる技術があります。実は、グリセリンの水酸基(OH)の露出をブロックするような保湿剤を同時に使用することで、べたつき感を抑制する技術があります。
そのために用いられる成分の一例が、PEG(ポリエチレングリコール)です。
以下にPEGの構造を示します。
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※ ”n” は同じ構造が繰り返されて連なっていることを表します。
PEG自体も端っこにだけOH基を持っていますが、メインの骨格は「ポリエーテル構造(-O-)」と呼ばれているものです。このポリエーテル構造は、水酸基(OH)ほどの結合力は持ちませんが、水分子の水素原子(H)とPEGの酸素原子(-O-)との間で水素結合を形成することで保湿機能を発揮します。
さてここで、グリセリンとPEGを適切なバランスで一緒に配合したとします。
肌に塗布した後、いつものごとく水分は徐々に浸透したり蒸発したりして減少していきます。水分が不足し、水分子との水素結合ができなくなった時、グリセリンのOH基とPEGの-O-との間で水素結合が生じます。これにより、本来は肌表面に露出するはずのグリセリンのOH基がPEGの-O-との水素結合によってブロックされるのです。
その結果、塗布終了から後感触に移行する間のグリセリンのべたつきが緩和されるという訳です。この技術は、保湿効果を持ちながらべたつかない化粧水などの開発に応用されています。
すごい技術が
さりげなく使われて、
べたつかずにしっとりする
心地よい使用感がつくられてるんですね。
あくまで使用感触を操る
開発技術の一例です!
もしも、比較的シンプルな化粧水などの全成分表示に、グリセリンと共に「PEG-〇〇」(〇〇には数字)という成分名が記載されている場合は、このような技術が採用されている可能性があります。いつかまた市販品の全成分表示を見る機会があれば、探してみてはいかがでしょうか。(🔗参考文献)
ここまで、水分子同士や多価アルコールの水酸基(OH)と水分子との水素結合、そしてそれによる結合水という状態で水溶性保湿剤が水を保持する機能について詳しく説明しました。
ん~教授、なかなかの
ボリュームですね。
でも頑張ります!
ここからはいよいよ、皮膚の保湿機能や皮膚中での水の振る舞い、そして化粧品による保湿サポートについてお話します。
ここまでお話した水素結合による結合水の原理は、これからお話しする肌の保湿効果のさまざまな要素に関連していますので、読みながら思い出していただければ幸いです。
角層の保湿環境
皮膚は、自身の使命を果たすためにさまざまな機能を備え、それを支える複雑な構造をしています。皮膚は表皮(厚さ約0.1〜0.3 mm)、真皮(厚さ2〜3 mm)、そして皮下組織から構成される繊細な組織ですが、実際にバリア機能を担っているのは、皮膚の最外層に位置する角層(角質層)という薄い層です。この角層はわずか10〜30 μmの厚さを持っています。
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角層は、ケラチン繊維で満たされた平たい形状の角化細胞(ケラチノサイト)が集まってできており、その隙間には細胞間脂質と呼ばれるラメラ構造が詰まっています。角層は、私たちの体を乾燥や外部からの刺激物質の侵入から守るバリアとして機能しています。この角化細胞と細胞間脂質の構造は、よく建物の壁のレンガとモルタルに例えることがあります。
細胞間脂質は、レンガである角化細胞同士の間を埋めるモルタルに相当します。細胞間脂質は、脂質二分子膜が層状に積み重なった構造をしています。レンガとレンガの間に隙間があると雨や隙間風が入ってくるのと同じように、細胞間脂質の構造と状態がバリア機能の維持にとって重要になります。
私たちの体の水分量は平均して約60〜70%ですが、角層の最外層に閉じ込められている水分は通常約30%程度だと言われています。また、肌の深さ方向には水分量の勾配があり、共焦点ラマン分光法を用いた測定でもその様子が観察されています。(🔗参考文献)
角層内においても、水は結合水と自由水の形態で存在し、肌本来の保湿状態やスキンケアによる保湿効果とその持続性に影響を与えています。
自由に飛んでいっちゃう自由水と
しっかり抱え込まれてる結合水
また出てきましたね!
角層内の水分は、角層細胞内でケラチン線維や天然保湿因子(NMF)との結合水として存在し、さらに線維間には自由水も存在します。これにより、角層の柔軟性が維持され、肌に弾力性がもたらされます。
一方、細胞間脂質には主にセラミド、それに加えてコレステロール、遊離脂肪酸が存在しています。これらが形成する2分子膜が積層した半固形ゲル状の構造をラメラ構造と呼びます。
ラメラ構造の親水基部分にも水分子が水素結合を形成した結合水として存在し、さらに層間には自由水がプールされています。これによって、角層は自身の重さの約3倍の水分を蓄えることができることがわかっています。(🔗参考文献)
エモリエントとヒューメクタント
肌本来の保湿機能に関連する成分と、それを補うスキンケア化粧品による保湿成分について、その役割を大まかなグループに分けてまとめました。(🔗文献を引用し一部改変)
肌の保湿において重要な役割を果たす要素は大まかに2つに分けられます。
それは、油分や細胞間脂質のラメラ構造などの遮蔽効果によるエモリエントと、水溶性保湿剤によるヒューメクタントです。
エモリエント と ヒューメクタント
それぞれの特徴を詳しく説明します。
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エモリエント
エモリエントは、主に疎水性(油溶性)の成分による保湿効果を指します。エモリエントオイルは、水に溶けず、自ら水分を保持する水素結合の能力を持ちません。代わりに、肌表面に塗り伸ばされることで薄い保護膜を形成し、その閉塞効果(オクルージョン効果)により水分の蒸散を防ぎ、肌の乾燥を防ぎます。これは肌の皮脂腺から分泌される皮脂膜の役割を代替もしくは補填するものです。
エモリエントオイルはさらに肌表面の乾燥や粗さを改善し、肌を柔軟で滑らかな状態に保ちます。また、見た目や触感の改善にも影響し、肌を保護することで炎症を緩和する働きがあります。
また、セラミドや脂肪酸などの細胞間脂質は、特有の界面活性能を持つ性質により、その親水基(水になじみやすい部分)に水酸基(OH)を持ち、水分子と結合して結合水を形成します。これにより、細胞間脂質は同じ方向に並んで、それが何層にも重なって規則的な層状構造であるラメラ液晶構造を形成します。
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「ラメラ液晶構造」は保湿のキーワードとしてよく出てきますね。
保湿クリームなど化粧品自体にもこの技術が活かされています。
多層構造によって水分を逃がさない皮膚が創る自然のアートです。
角層の層間にはさらにわずかな量の自由水が挟み込まれ、角層に一定の水分を保持し、同時にバリア機能を強固に安定させる役割を果たしています。
その主成分であるセラミドなどの脂質は、化粧品によって肌に補給することも可能で、バリア機能が低下した肌を補強し保護するために、さまざまなスキンケア化粧品に配合されています。セラミドに関する詳細な話題については、別の機会に取り上げたいと思います。
エモリエントをわかりやすく表現すると、つまりこうです!
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ヒューメクタント
ヒューメクタントは、水溶性の成分であることが多く、水分子自体または皮膚の成分と直接結合することで、水分を保持する能力があります。
オクルージョン効果(エモリエントの主な機能)は低く、主に肌表面から角層に浸透して作用します。前述したグリセリンなどの多価アルコール類が代表的なヒューメクタントです。
また、低分子の多価アルコール類やアミノ酸と、比較的高分子のヒアルロン酸などを組み合わせることによる相乗的な保湿作用についての報告もあります。アミノ酸やヒアルロン酸も、水酸基(OH)を持ち水分子と水素結合を形成する性質を持っています。
さらに、ヒアルロン酸はその高分子構造により大きなブロック単位で水を抱え込むことができる優れた保湿成分として定評があります。
ヒューメクタントを表現すると・・・
きょ、教授!
(まだやるの!?)
…つまりこうです!
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エモリエントとヒューメクタント
すごくよく理解できました!
(写真…要る?)
「保湿のトライアングル」を意識した保湿ケアとは?
肌が潤いやハリ、柔軟性、なめらかさ、整ったキメを維持できるのは、角層が保湿され水分を保持しているからです。また、肌の透明感や良好な化粧のりにも、角層の水分量が重要な役割を果たしていると言えます。
肌に必要な保湿に関与する成分、そして保湿の原理を理解頂いた上で、
最後にこの講義で一番大切なことをお伝えしたいと思います!
ここからが一番重要な
「保湿のトライアングル」です!
保湿において最も重要なことは、「保湿のトライアングル」に意識を向けたスキンケアを心掛けることです。(🔗参考文献)
©gakucho
肌を健やかに保つためには、皮膚の生理的な恒常性(ホメオスタシス)を維持することが重要です。そのためには、水分、エモリエント、ヒューメクタントのバランスを適正に保つことが大切です。
私たちの肌は、乾燥肌、脂性肌(オイリー肌)、混合肌などに分類されることもありますが、明確ではなくとも、どの肌にも程度の違いこそあれ個性や偏りがあります。肌の保湿バランスが偏った状態となるのを防ぐためには、常に保湿のトライアングルの中心になるように水分、エモリエント、ヒューメクタントを化粧品で補うことが必要です。それにより、肌は適切な保湿状態を維持し、健やかさを保つことができます。
ただ過度な、または偏った保湿ケアを続けると、潤ったつもりでも保湿のトライアングルが崩れている可能性もあることに注意してください。
どれかに偏らない
水分、エモリエント、ヒューメクタントの
適正なバランスが大事なんですね。
保湿のトライアングルのために
Ⅰ. 王道のスキンケアステップはやっぱり大切
ヒューメクタントとエモリエントの役割を理解していただけましたでしょうか?
まずはじめに水分と適量のヒューメクタントを補給して角層内部に水分をしっかりと浸透させ、その後にエモリエントを使って肌表面を覆うのが妥当な手順です。
確かにオールインワン製品の中には機能性の高いものもありますが、化粧水で十分な水分補給をした後、乳液やクリームで閉じるというスキンケアの手順は、保湿の工程として理にかなっていますので、引き続き大切にしていきたいものです。
皮膚本来の保湿機能がそうであるように
水分で浸潤させてから、油膜で閉じ込める!
Ⅱ. 保湿後の角層の再配列の過程も大切に
保湿ケア直後の肌は、通常の状態よりもやや多くの水分を含み、しっとりと浸潤しています。また、細胞間脂質のラメラ構造も、多少過剰な水分を保持し間隔が広がった状態です。
角層内の水分量が過剰な状態(過膨潤)で肌が長時間晒されたり、角層に浸透した保湿剤自体が角層の構造を崩してしまうと、角層のラメラ構造が乱れ、結果的にバリア機能が低下しドライスキンになってしまう可能性があります。(🔗参考文献)
極端な例で例えると、
お風呂に入り過ぎたときに
手のひらがシュワシュワになる
あぁいう状態ね。
資生堂のある研究により、適切な保湿剤を選択し、保湿ケア後の余分な水分をゆっくりと蒸散させることが実はとても重要で、それによって角層が定常状態に戻った際に並びを整え、バリア機能が保湿ケア前に比べてより良好な状態に回復することがわかりました。(🔗参考文献)
この研究は、保湿ケアで与えた水分のうち、最終的には乾いてしまう水分を一度肌に与えることの意義を明確に説明した素晴らしい研究テーマです。
当時、資生堂の研究員だった平尾先生のチームが放射光を用いた角層の構造研究の権威である八田一郎先生との共同でおこなったこの研究結果は、業界の研究者からも支持を受けています。
平尾先生についての記事も少しだけ書いていますので、お時間があれば読んでみてください。
Ⅲ. ヒューメクタント多めの厚盛ジェルに気をつけて
オールインワンゲルは、時間のない方でも手間なくスキンケアできる利便性が人気となり、時短コスメの1つのカテゴリーとして大きく成長しました。現在では、さまざまなメーカーからオールインワンゲルが発売され、タイプ別に多数の品目展開をしているブランドも増えています。その中で、保湿力を競う商品開発が進んでおり、ジェルクリームやクリームに近いテクスチャーの商品も増えています。
もはやカテゴリーの線引きが
分からないですよね…
一般的に、オールインワンゲルの透明感のあるみずみずしい外観を維持するためには、水溶性のヒューメクタントの配合が容易ですが、油性のエモリエントを多く配合しようとすると乳化し、クリーム状となってしまいます。そのため十分な量のエモリエント性を得られないケースもあります。
ヒューメクタントが過剰に配合されたようなスキンケア製品や、厚塗りや重ね塗りでヒューメクタントが偏って多く肌に残る状態が続くと、浸透させた水分が肌内に留まるどころか、十分に水分を送り込めない、または逆に肌から水分が奪われてしまい、インナードライ状態になる場合もあります。肌表面を手で触ってしっとりとした感触があっても、肌内部には水分が十分に浸透していないなんてこともありますので、皆さん気をつけて下さい。
©gakucho
講義のあとで
今回の講義では「保湿」という1つのテーマにフォーカスしましたが、それだけでもさまざまな成分が関与していることが分かりましたね。
これまで何となく、保湿成分はべたつかなければ何でも多い方がいいと思っていました。今日から保湿のトライアングルと手順を意識した保湿ケアをやってみます!
このように保湿成分の働きを理解した上で、それを妄想しながらスキンケアすると、「あ~今めっちゃ水素結合してるわぁ」「セラミドで角層バリア、シャキーンなったわぁ」といった感じで、保湿成分の効果をイメージしながらちょっとだけマニアなスキンケアを楽しむこともできるかもしれませんね。
今回、他の情報サイトとは異なる視点から、基本的な保湿ケアについて意外にも忘れがちな重要なポイントをまとめました。これらをイメージしながら、日々の保湿ケアに取り組んでいただければ幸いです。
みんなの化粧品リテラシー向上こそ本学の理念です!
それでは皆さんお疲れさまでした~!