定められた56項目の表現でしか効能を表示できない化粧品と比較して、医薬部外品は認められた有効成分の効能を表示することができるとされています。
しかし、医薬部外品の効能表示に関しても、ほぼそのままの表現でしか表示することができません。
これらの規定については、過去の講義で化粧品や医薬部外品の効能と効果に関してまとめています。もし基礎知識が不足しているか見逃してしまった方がいらっしゃれば、以下にリンクを添付していますので、ぜひその講義もご覧いただければ幸いです。
🔗【薬機法入門講座 講義1 効能効果】化粧品と医薬部外品で謳えること
最近では、様々なインターネット媒体を通じて化粧品が紹介されるようになりました。そこでは、化粧品に配合されている成分一つ一つに関する美容理論までがクローズアップされ、詳細に語られています。そのおかげで、実際の化粧品には記載されていないような多くの情報を入手することができるようになりましたね。
そのような背景もあり、本学では基本に立ち返り、化粧品と医薬部外品について正確かつ分かりやすく理解していただくために努めています。化粧品や医薬部外品のカテゴリーごとに定められている効能表現やルールについて正しく理解していただくことで、皆さんが日常の化粧品選びや化粧品ビジネスの場で役立てることができると嬉しいです。
本講義では、医薬部外品として認められている効能の中でも、美白に焦点を当てて理解を深めていただきます。また、新たに追加された美白の効能である「メラニンの蓄積を抑え、しみやそばかすを防ぐ」という効果についても詳しく解説していきたいと考えています。
美白 講義 1 作用機序論
化粧品と医薬部外品で謳える美白効果の表現
化粧品のカテゴリーでは、肌を白く見せる効果を「メークアップ効果」として表現することができますが、メラニンに関連する作用機序による美白効果は一切謳うことができません。
一方で医薬部外品(薬用化粧品)のカテゴリーでは、所定の有効成分を配合することでメラニン色素の生成を抑え、しみやそばかすを防ぐ美白効果を表現することができます。一般的にはこれらの製品は「美白化粧品」と呼ばれています。
美白の医薬部外品は、一般的にはメラニン色素の増加した部位に作用し、メラニン色素の生成を抑制して元の肌の色に近づける効果があります。
“色の白いは七難隠す”ということわざに表現されるように、日本では白い肌が美肌の理想であるとされてきたことから、「美白」という言葉がよく用いられています。しかし決して肌本来の色そのものが白くなるような漂白作用や、既存のしみやそばかすを即座に取り除くような治療的な表現は許可されていません。
医薬部外品では一般的に以下のような効能表現が可能とされています。
- 化粧品の機能としての「メークアップ効果」により肌を白くみせる効果に基づいた表現
- 承認を受けた「日やけによるしみ、そばかすを防ぐ」または「メラニンの生成を抑え、しみ、そばかすを防ぐ」という効能効果に基づく表現(二者択一)、もしくはそれらの表現と同義語と解される表現
- 「美白」や「ホワイトニング」などの表現は、しばり表現(*)の併記を前提に認められる
*しばり表現:日やけによるしみ、そばかすを防ぐ など
【参考例】 美白*美容液(*メラニンの生成を抑え、しみ、そばかすを防ぐ)
美白ケアの本当の意味とは?
しみは、肌表面に黒色のメラニンが過剰に蓄積することによって肌が部分的に茶色く見える状態を指します。しみが目立つと、その部分と他の肌エリアとの色の濃淡の違いによる色ムラが生じ、肌がくすんで見えたり、年齢を感じさせたりします。
美白ケアとは、しみ、そばかす、くすみ、肌の色ムラなどを改善したいと考える方が、美白の医薬部外品や化粧品を積極的に使用して肌を予防的にケアすることを指します。すでに存在するしみを消すためのものではありません。
美白ケアは、すでに存在するメラニンが肌のターンオーバーによって徐々に排出されるのを待ちながら、新たなメラニンの生成を抑制することを目指します。つまり、将来的にしみができにくい肌を育むための取り組みであり、その点を感覚的に理解しておく必要があります。
それを踏まえて、十分な美白の効果を実感するためには、肌のターンオーバーサイクルに応じた期間にわたる継続的なスキンケアが必要です。この点についても理解していただけると思います。
様々な研究により、30代前半から後半にかけてしみの数が急激に増える傾向があることがわかっています。そのため、最近では紫外線対策や保湿に加えて、早めの美白ケアも推奨されています。
黒色メラニンは肌を守る正義の味方
黒色メラニンは、肌にさまざまな美容的な悪影響を及ぼす原因となるため、一般的には「肌の天敵」として認識されがちですね。
しかし、実際の黒色メラニンは、紫外線による悪影響から私たちの体内を守る有能な成分です。黒色メラニンは、体の最前線で肌の細胞たちが営む重要な防御システムなのです。
表皮の基底層には、ケラチノサイト(表皮角化細胞)約10個に対して1個の割合でメラノサイト(色素細胞)が存在しています。紫外線を浴びると、まずメラノサイト内でシグナルが受け取られ、黒色メラニンが生成されます。その後、メラノサイトからケラチノサイトへメラニン顆粒(メラノソーム)が送られる仕組みです。
ケラチノサイト内部に取り込まれたメラニンは、細胞核を守るために各細胞内で皮膚表面側に密集し、紫外線への防御壁を形成します。言ってみれば、皮膚にできる「天然のサングラス」のようなものです。この黒色メラニンを含んだケラチノサイトによって形成されたバリア機能が、次なる紫外線によるダメージから肌を守ってくれます。日焼けによって肌が黒くなるのは、このバリア機能の働きによるものです。
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本来、黒色メラニンは外部環境からの影響により肌に発生する病気(例:皮膚がんなど)や肌トラブルを防ぐために重要な物質です。
しかし・・・黒色メラニンが過剰になると?
黒色メラニンは毎日メラノサイト内で生成され、それを受け取ったケラチノサイトは角化の過程で形態変化を遂げながら最終的に角層の一部となります。そして表皮ターンオーバーにより最終的にはメラニンと一緒に古い角質として排出されます。
健康な肌では、このメラニン生成と排出のバランスが適切に保たれています。しかし、短時間で過剰な紫外線を浴びたり、体調や年齢によって表皮ターンオーバーサイクルが乱れると、黒色メラニンの生成量が過剰になり、排出とのバランスが崩れてしまいます。
その結果、黒色メラニンが表皮中に過剰に蓄積されることになります。この過剰な蓄積された黒色メラニンこそが、しみやそばかすの原因となるのです。
なお、黒色メラニンによる直接的な影響以外にも、しみ、そばかす、くすみの原因となる要素が存在します。これらは複合的に絡み合い、肌への影響を及ぼしていることが分かっています。これらについては、別の機会に解説したいと思います。
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しみ、そばかすの原因とそのメカニズム
しみやそばかすを予防するためには、先ほど解説したメラニンの発生とその後の受け渡しを含む作用機序を理解した上で、それぞれの作用機序に対応するスキンケアや生活習慣の改善が重要です。
以下にしみやそばかすの発生原因を4つにまとめました。
✓メラニンの過剰生成
外出時などに紫外線対策を十分に行っていないと、紫外線をたっぷり浴びた肌ではメラノサイトがメラニンを過剰に生成し肌に蓄積します。すでに解説した部分ですね。
✓ターンオーバーの乱れ
メラニンが大量生成されたとしても、ターンオーバーが正常なサイクルであれば古い角層とともに排出されます。しかし十分なスキンケアを行わなかったり、寝不足、ストレス、ホルモンバランスなどによって体調が崩れたりすると、ターンオーバーは乱れてしまいます。それにより肌内部にメラニンが停滞したり、角層が重層化しくすんで見えたりします。
紫外線をたっぷり浴びた肌では、紫外線ダメージを受けた肌を守ろうとするため、逆にターンオーバーが早期化することもあります。その場合、角化が十分に追いつかないまま未成熟な角層が形成されてしまい、乾燥や角層の肥厚化によって透明感が失われくすみ印象の原因になってしまいます。
✓その他の酸化ストレス
紫外線を浴びること以外にも、ストレスや体調、外界からの刺激などによって体内で活性酸素が発生し肌を酸化させることがあります。酸化は肌にあるさまざまな細胞にダメージを与えて悪影響を及ぼします。しわ、たるみなど形態的な肌の老化を促す要因や、しみ、そばかすにもつながることが分かっています。
✓血行不良
顔中に張り巡らされている毛細血管は、肌に必要な栄養を運ぶとともに、メラニンなどの老廃物を排出する働きもしています。また血行が悪くなることで、生成したメラニンがスムーズに排出されずに蓄積してくすみの原因となります。
医薬部外品に使用可能な美白の有効成分
将来的にしみ、そばかす、肌の色むらの症状が起こらないように緩和し、予防するためには、美白効果が確認されるさまざまな有効成分が開発されてきました。
資生堂は業界最大手であり、その美白研究では1990年代にアルブチンをはじめとする美白の有効成分が次々と開発されました。日本で認可されている美白の医薬部外品の有効成分は約20種類ありますが、資生堂はその中でも以下の5種類の有効成分を薬事開発し、現在も美白分野の技術開発をリードしています。
- アルブチン
- L-アスコルビン酸 2-グルコシド
- 3-O-エチルアスコルビン酸
- m-トラネキサム酸
- 4MSK
現在使用されている医薬部外品の美白の有効成分とその作用機序をまとめたリストのリンクを以下に掲載しています。必要に応じて参照してください。
🔗”クセ強め„化粧品辞典「医薬部外品・美白 有効成分リスト」
医薬部外品で謳える美白の効能表現
医薬部外品の決められた効能の中で、美白方面の効能としてはこれまで以下のものに限られていました。
「日やけによるしみ・そばかすを防ぐ。」
もしくは
「メラニンの生成を抑え、しみ、そばかすを防ぐ。」
のうち二者択一
黒色メラニンによる肌機能の根源的な問題に対して具体的にアプローチする効能表現が好まれる傾向があり、市場では「メラニンの生成を抑え、しみ、そばかすを防ぐ。」と表記されている美白化粧品が大半を占めています。
本学サイトでは、「医薬部外品・美白の有効成分リスト」🔗を紹介しており、このリストに掲載されている有効成分のうち、2つを除くほとんどが「メラニンの生成を抑え、しみ、そばかすを防ぐ」という効能を標ぼうしています。
このリストを見ると、現在では20を超える美白の有効成分が承認されていることがわかります。
その中には、特定の会社が独自の有効成分を所有しているものもあります。また、特定の有効成分に対して新たな作用機序の美白効果を発見し、有効性データを取得しているものも存在します。これらのデータは学会発表やプレスリリースなどを通じて公表され、最終的には自社製品のアピールにつなげる戦略が活用されています。
しかし、このような状況でも、厚生労働省に認められる医薬部外品の効能としては、「メラニンの生成を抑え、しみ、そばかすを防ぐ」という標ぼうしかできないことに変わりはありません。
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これまでの「美白のダブル有効成分」
単一の有効成分としては配合できるものは限られており、新たなオリジナルの有効成分を承認してもらうことは容易ではありません。そのため、各企業は有効成分以外の添加成分やテクスチャーなどを工夫し、差別化を図っています。
このような中で、既存の有効成分を複数併用した医薬部外品が承認を受ける時代が到来しました。それは美白の有効成分を1つの製品に2種類配合した美白のダブル有効成分となる医薬部外品です。
同じ効能の有効成分を2種以上配合して医薬部外品として承認を受けることは、一般的に非常に困難とされています。まず、それぞれの有効成分が異なる作用機序を持つことが前提となります。さらに、2種類の成分を併用することで、互いの有効性や安全性が過剰に影響し合わないことをデータで示す必要があります。
現在、厳しい条件を満たして承認を得た特定の美白有効成分の組み合わせのみが、美白効果のある成分を2種類併用することが可能となっています。
全ての詳細を公開することは機密情報に関わる可能性もあるため、一般の方でも確認できる代表的な美白有効成分の組み合わせを以下に示しています。
- アルブチン + L−アスコルビン酸 2−グルコシド
- トラネキサム酸 + L−アスコルビン酸 2−グルコシド
- エラグ酸 + L−アスコルビン酸 2−グルコシド
- エラグ酸 + アルブチン
- ルシノール + L−アスコルビン酸 2−グルコシド
- m-トラネキサム酸 + 4MSK
※トラネキサム酸を「肌あれ防止」の有効成分として配合している場合は、美白のダブル有効成分ではないため除外しています。
この中で、アルブチン+L-アスコルビン酸2-グルコシドのダブル有効成分の組み合わせは、現在の市場では比較的多くの製品で発売されていると感じています(これは正式なデータではなく、個人の感想です)。
この組み合わせの有効成分を利用した化粧品は、美白のダブル有効成分ブームが始まった初期から販売されているものがあります。その一つがちふれ化粧品の美白美容液Wです。
ちふれ化粧品は、美白のダブル有効成分に対する製品展開を早めに行っただけでなく、徹底的なコスト削減も行いました。有効成分は一般的に高価ですので、2種類を配合するとコストが高くなりがちですが、ちふれ化粧品はリーズナブルな価格で提供しました。その結果、現在でも販売されている美白のダブル有効成分のロングセラー製品となっています。
このように美白のダブル有効成分という差別化がありますが、有効成分は2種類であっても標ぼうできる効能は「メラニンの生成を抑え、しみ、そばかすを防ぐ。」のみとなります。美白剤を2種類配合しても、2種類の効能(ダブル効能)を謳うことはできなかったのが、これまでの美白化粧品の限界でした。
【日本初その1】今までにない効能を謳える美白有効成分の登場
このような状況が長らく続いていましたが、化粧品業界に新たな変化が訪れました。実際に「メラニンの生成を抑え、しみ、そばかすを防ぐ。」とは異なる効能を標ぼうできる有効成分が登場したのです。
その有効成分とは、大塚製薬が承認申請を行い、2004年に厚生労働省から医薬部外品・美白の有効成分として承認を受けたAMP(アデノシン一リン酸二ナトリウム OT)です。この成分は通称「エナジーシグナルAMP」とも呼ばれています。🔗
加齢により、表皮基底細胞の活動が低下し、ターンオーバーが遅れることがわかっています。しかし、AMPは衰えた表皮基底細胞のエネルギー代謝を高め、正常な細胞サイクルでケラチノサイトを生成するサポート効果が確認されました。これにより、ターンオーバーの乱れを正常化し、メラニンの排出を促進するのです。
このように、「メラニンの蓄積を抑え、しみ、そばかすを防ぐ」という新しい作用機序の美白効果が、厚生労働省に承認され、標ぼうすることが可能になりました。大塚製薬は長年にわたり、このAMPを有効成分としたインナーシグナルシリーズを販売しています。
その後、時間が経ち2018年にはポーラ・オルビスグループの独自の成分である「デクスパンテノールW」が同様の美白効果の有効成分として承認されました。これは、2009年以来久しぶりの美白有効成分となりました。
デクスパンテノールW(D-パントテニルアルコール)は、ビタミンB群であるパントテン酸のアルコール型誘導体であり、プロビタミンB5とも呼ばれています。
デクスパンテノールWは、ケラチノサイトの細胞増殖作用によって表皮のターンオーバーを促進し、メラニンの排出を促すことで、メラニンの蓄積を抑える効果が確認されています。
デクスパンテノールWを有効成分とした美白の医薬部外品としては、POLAワイトショットLX/MXやオルビスホワイトクリアエッセンスなどが発売されています。
現状では、これらの2つの有効成分のみが、「メラニンの蓄積を抑え、しみ、そばかすを防ぐ」という効能を標ぼうすることができる美白有効成分として認められています(2023年5月現在)。
これらの有効成分は、
2種の有効成分には、メラニンの生成を抑制する効果はない
ことも同時に確認されていること。
それがこの新効能を取得できた1つの大きな条件だったのです(ここ重要!)。
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【日本初その2】そしてさらなる高みへ「真の美白ダブル効能」の完成
本講義のこれまでの「美白のダブル有効成分」のところで解説したように、同じ効能の有効成分については、それぞれの有効成分の作用機序が違うことが前提になります。
大塚製薬は2023年春、とうとう我々の予想に応えて「真のダブル美白」を謳う医薬部外品「サクラエ ダブルアクションセラム」🔗を発売しました。
AMPとL−アスコルビン酸 2−グルコシドの組み合わせで、メラニンの「生成」と「蓄積」をダブルで抑え、しみ・そばかすを防ぐ医薬部外品の承認を日本で初めて取得したのです。
L−アスコルビン酸 2−グルコシド(LVCと呼称=持続型ビタミンC誘導体)
→メラニンの生成をおさえ、しみ・そばかすを防ぐ
AMP(アデノシン一リン酸二ナトリウム OT)
→メラニンの蓄積をおさえ、しみ・そばかすを防ぐ
これは推測でしかありませんが、この2つの効能の作用機序が違うことから、承認取得を実現できたのではないかと考えられます。
この偉業が今後の美白化粧品市場にどのような影響を及ぼすのか、また実際の効果に関する評価はどうなのか、そして競合製品はいつ登場するのかなど、今後の展開について注目したいと思っています。
講義のあとで
さて皆さん。本講義もお疲れさまでした。最後まで読んでいただきありがとうございます。
世の中では化粧品や医薬部外品において瞬く間に肌が白くなるような表現の謳い文句もあちらこちらで謳われているかと思います。
今回の講義を通じて、厚生労働省が公式に認める効能の表現がどのようなものか、そしてその管理がいかに厳格であるかを理解していただけたかと思います。
医薬部外品の効能は、厳しい規制のもとで管理されていますが、そんな中で新たな変革が起きました。
大塚製薬は長い研究開発期間と膨大な研究費用、そして厳しい申請手続きを経て、この新たな効能を取得したと想像できます。
そして、その成果はさらに進化し、「真のダブル美白」へとつながりました。
皆さんに少しでもその希少な価値を理解していただけたなら、今回の講義の意義がありますね。
みんなの化粧品リテラシー向上こそ本学の理念です!
それでは皆さんお疲れ様でした!